東京医科大学八王子医療センター 脳神経外科 | 頭部外傷

頭部外傷

大塚 邦紀

頭が痛い。吐き気がする。は、脳の中で異変が起こっているサインです。

頭打の危険度は年齢によって違う

 脳神経外科の頭部外傷治療というと、とかく頭の大怪我を処置するものと考えられがちですが、実際には頭をどこかにぶつけただけでも頭部外傷の診療領域となります。傷やその後の症状がなくても、多くの方は「頭をぶつけた」ということだけで不安になるものです。したがって、気持ちがもやもやして心配だということで病院を訪れる方もいらっしゃいます。
 八王子医療センターの外来では、頭をぶつけて頭痛がする、吐き気がするという方が圧倒的に多いのが現状です。この2つは、頭をぶつけて脳の中で何か異変が起こっている最初のサインですので、検査の結果大事に至るものではなかったとしても、その判断は正しいと思います。
 頭を打った場合の危険度は、年齢によっても違います。比較的成人の危険度が低い一方、老人は脳自体が萎縮して小さくなっているので揺れやすく、頭を強くぶつけた後は脳を傷つけてしまう脳挫傷になりやすくたいへん危険です。また、幼児であれば骨が柔らかいので、強くぶつけても骨自体がショックを吸収してくれるという説もありますが、骨が柔らかいだけに陥没骨折を起こしやすいという危険性も否めません。そもそも子どもの場合は脳の成長過程にあるため、事後の様子に「おかしいな」と思うところが少しでも見受けられれば、即座に病院に行くことをお勧めします。

頭をぶつけたら素人判断は禁物

 実際のケースとしては、頭をぶつけた後に頭痛がする、吐き気がするという方々の多くは「検査の結果、何も問題がなかった」という場合が多いのですが、頭を打ったときは脳震盪や脳内出血を起こしている場合もあり、それが頭痛や吐き気の原因となっていることもあります。こうした場合は、患者さん自身や周囲の方々から症状を聞いただけでは正しい判断ができないため、しっかりCT検査を行って判断することが必要になります。ただ子どもの場合は、頭をぶつける回数も多く、それに加えて最近は、放射線が問題視されているため、まずは症状をしっかり観察して、仮に頭痛がしていたり吐いたりしても元気であればCT検査を行わないケースも少なくありません。
 またスポーツをやっている学生さんなどが、脳震盪を起こしてもグラウンドの外で少し休んですぐに復帰するということがありますが、脳神経外科のスポーツ外傷の見たてとしては危険極まりない判断と言わざるを得ません。
 頭を打って15分以内意識が朦朧としている状態であれば、それが初めての場合なら、しばらく休んでその日のうちに復帰することも可能。2回目だったら1週間の安静。もし15分以上朦朧としているのであれば2週間の安静が必要となります。また中には記憶が抜けてしまう人もいて、数分であれば1週間は絶対安静、それ以上であれば、やはり2週間以上は安静をとるのがガイドラインになっています。この病院の近くにも、体育会スポーツの盛んな大学があり、頭を強打した学生さんたちが訪れ早期の復帰を希望しますが、医師としてそのガイドラインは崩しません。
 聞くところによると、頭を打って倒れている選手に、バケツの水をかけて目を覚まさせるようなことを実際にやっているスパルタ式の学校もあるようですが、それはまるで論外。スポーツに限らず、頭を打った場合の素人判断は本当に危険ですので、周囲の人には慎重な対応が求められます。

救急でも最優先される頭部外傷

 八王子医療センターでは、夜間の救急にも、1次救急、2次救急、3次救急とありまして、患者さんからの電話相談レベルのものは基本的に1次救急となります。ただし1次救急については、私たちの病院のかかりつけの患者さんからの電話相談しかお受けできません。私たちは夜間でも手術をしていること多く、そうした中、夜中に頭を打ってその後調子が優れなという方の電話相談まではなかなか受けきれないというのが現実です。
 2次救急は救急車で運ばれてくる患者さんです。頭を切った、あるいは少し意識朦朧としている方で、ここからが頭部外傷の実質的な仕事になります。そして3次救急となるとこれはもう重症の患者さんです。3次救急の場合、八王子医療センターには救命救急科がありますので、まずはそちらで初期対応を行い、脳内に出血が見られるなど、最優先すべき問題が頭部にあれば脳神経外科に連絡がくることになり、私たち脳神経外科医が治療にあたることになります。
 救急隊の方たちも、事故にあった患者さんに対しては、まず「頭は大丈夫か」ということを考えます。というのも、よほど目立った外傷がない限り、事故で最も懸念されるのは脳に対するダメージだからです。したがって、救急車で運ばれてくるような患者さんを最初に診るのは多くの場合が脳神経外科医であるため、私たちは24時間いつ患者さんが運ばれてきても最善の対応ができるよう準備を整えています。

大塚 邦紀