東京医科大学八王子医療センター 脳神経外科 | てんかん

てんかん

須永 茂樹

てんかんセンターとして院内連携を強め、地域唯一の最先端治療を提供します。

てんかんに対する認識が甘い日本の現状

 全身が突っ張り、痙攣を起こして泡を吹いて倒れてしまう。これが一般的にイメージされがちな「てんかん」の症状ではないでしょうか。しかし、こうした症状は少ないのが現実です。ある市町村の市民調査によると、87%の市民はてんかんの症状は「体が突っ張って痙攣を起こす」と認識しているというデータもありますが、実際にそうした症状を起こすてんかんの患者さんは20%ほどです。
 実際的なてんかんの症状として多いのは、「ぼんやりとして一瞬行動が止まってしまう」といったものです。にも関わらず、「痙攣を起こして泡を吹いて倒れてしまう」のがてんかんであると思い込んでいれば「ちょっとぼんやりしたくらいで病院に行く必要はないだろう」と考える人も少なくないでしょう。となると、いつまでたっても発作を抑制することができず、最悪の場合はその一瞬の発作で深刻なトラブルをひき起こしてしまうことにもなりかねません。追突事故を起こした人が、「ちょっとぼんやりしていて」と言いますが、頻繁に「ぼんやりしてしまう」ことが多い人は、「その一瞬がてんかんの発作を起こしている状態であった」ということもあり得るのです。これは、てんかんに対する認識の甘さが原因。日本には通院していない『潜在的てんかん患者』が相当数いるものと考えられます。

専門医に相談して“やりたいこと”を諦めない

 てんかんは「遺伝性の病気ではない」とか「成人してから発症することはない」などと言われますが、それは間違った見解です。特殊ではありますが遺伝性のてんかんもありますし、成人になってからてんかんを発症するケースも少なくありません。つまり、「何歳からでも、誰にだって起こり得る病気」それがてんかんに対する正しい認識です。にも関わらず、間違った診断を下されると、患者さんは日々の生活の中でも多くの制約を抱え、何かを諦めながら生活していくことにもなりかねない。事実、そうした人が大勢います。
 たとえば自動車の運転です。かつては、てんかんを持っている人は自動車の運転ができないとされていました。ところが現在は法律の改正によって、てんかんで薬を飲んでいる人でも2年間発作がなく、それを認める主治医の診断書があれば自動車の運転免許は取得できることになっています。また、てんかんの薬を飲んでいるから妊娠・出産はできないと考える人がいますが、それも間違いです。妊娠前に正しい診断と症状に合った治療が行われ、また担当医から赤ちゃんに対する薬の影響等の説明が正しく行われれば、患者さんは妊娠・出産を恐れる必要はありません。つまり、てんかんという病気は、その人の症状に合った薬を飲んでさえいれば、普通の生活を送ることができる病気でもあるのです。そのためにはまず、正しい診断を下せる専門医にかかることが肝心です。

院内連携であらゆるてんかん患者をサポート

 てんかんが深刻な病としてクローズアップされ始めたのはここ5年ほどのことです。それまではなかなか市民権を得ることができず、多くの場合ワンパターンの投薬治療しか行われていませんでした。今でこそようやく社会や医療の現場でも問題視され始め、てんかんの専門医を抱える一部の病院では症状の分類ごとに正しい治療が行われるようになりましたが、てんかん治療に力を入れる病院はまだまだ少ないのが現状です。そうした中、ここ八王子医療センターでは、医療設備の充実はもちろん、脳神経外科、小児科、神経内科、救命救急センター、メンタルヘルス科、特定集中治療部、生理検査部等の院内連携を確立。南多摩地区周辺では唯一の最先端てんかん治療を提供できる病院として期待されています。(※2012年度のデータでは、新患数が213人、再診数が7268人)
 また、この病院は救命救急センターを抱えているのが大きな特徴の1つです。てんかんを専門的に診ている病院の中でも救命救急センターを抱えている病院は少ないと思われます。八王子医療センターでは、この病院の掛かりつけであろうがなかろうが、生命に危険を及ぼすような発作が起きた場合、救命救急センターで患者さんを受け入れます。その上で必要とあらば、我々のところに連絡が入り、患者さんの年齢や状態などに応じて、それぞれの科の医師が対応にあたる仕組みが構築されています。こうした院内連携が評価されて、八王子医療センターは、『全国てんかんセンター協議会』の認定医療機関にも登録されています。

てんかんの分類確認が正しい治療の第一歩

 てんかん治療で大事なことは、それがどのようなタイプのてんかんなのか分類確認をすることです。その手段として『長時間ビデオ脳波記録』があります。これは、長時間脳波をとりながらビデオ撮影を行い発作の形状態を観察するというもので、長い時は1週間ほどに及ぶこともあります。この検査で発作が確認できれば、てんかんの分類に当てはめやすくなり、どんな薬を投与するのがベストなのかという治療の方針も立てやすくなるわけです。
 発作の状態がどのようなものかを患者さん本人に訪ねるても、正しい情報が得られない場合が考えられます。意識が減損する発作を起こしている当人は、それがどのようなものかは分かるはずもありませんし、近くにいてその様子を見ているご家族にしても、状態を正しく説明できないことがあります。ここで間違った診断を下してしまうと、本来ならばスムーズに治療が進むはずのものも遠回りをすることにもなりかねません。
 こうした長時間ビデオ脳波記録の設備があるのは、南多摩地区近辺ではここ八王子医療センターしかありません。またこれは脳神経外科だけの取り組みではなく、小さいお子さんの場合は小児科でも同じ検査と治療を行います。すなわちそれが、『てんかんセンター』としての強みであり、脳神経外科、小児科、神経内科、救命救急センターなどがそれぞれの科の垣根を越えて連携し、最も相応しいアプローチを行っていくことが患者さんの苦しみや不安を解消する第一歩となるのです。