東京医科大学八王子医療センター 脳神経外科 | 脳血管障害

脳血管障害

神保 洋之 神保 洋之

TPA治療からカテーテル血管内治療まで、 南多摩地区屈指の医療体制を整えています。

予兆が現れたら、速やかに医師に相談

 脳血管障害では、脳の血管がつまる脳梗塞や、血管に動脈瘤ができてそれが破れるくも膜下出血、また脳内血管が破ける脳内出血など、いわゆる脳卒中の患者さんを中心に診ています。これらに加えて最近では、脳梗塞の前段階である一過性脳虚血の患者さんが増えています。この病気の症状は、人からものを聞かれてもすぐには言葉が出ずに「う~」という間があり、しばらくたってよやく言葉が出てくるというもの。これは脳梗塞を発症する前の警告サインであり見逃してはならない症状です。
 一方、くも膜下出血は前兆の見極めが困難です。用心深い患者さんの中には、頭痛を心配されてホームページで調べたら「頭痛はくも膜下出血の予兆でもある」ということが書いてあったので心配になって病院にきた。という人もいますが、頭痛がしたから即くも膜下出血を疑うというのはいささか早計です。パソコン画面の見すぎや、夜更かし、あるいは過労やストレスなども頭痛の原因となるわけで、「頭痛=くも膜下出血」と考える必要はありません。ただ決して軽視してはいけません。それが突き刺すような激痛であったり、日ごろから頭痛持ちの人でも、痛みの度合いが違ったり、あるいは痛む場所が違う場合などは、速やかに医師に相談することが必要でしょう。

脳梗塞は、治療開始までの時間との競争

 最近はテレビタレントが「脳梗塞を克服して無事復帰した」という話題をよく耳にしますが、この病気は、症状が現れて治療に取りかかるまでの時間との勝負です。突然手足に力が入らなくなった、言葉が喋れなくなってしまった、ろれつが回らなくなった、今までなかったところに痺れが出てきた、こうした症状が現れたときは脳の中で何か起きているものと考えて間違いないでしょう。ただ、しびれについてはなかなか自分で判断し難いもの。たとえば腰が悪くてヘルニアを患っていれば足に痺れがくることもありますし、足だけが痺れるような場合は、それが脳からきているとは考えにくいと思います。むしろ半身広い範囲にわたって痺れが現れた場合は要注意です。
 脳梗塞の初期治療としてはTPAという血栓を溶かす薬があり、症状が現れてから4時間半以内であれば使用できます。ただこれは薬が使える限界時間であり、当然早ければ早いほどいいに越したことはありません。したがって以上のような症状が顕在化した場合は、一刻も早く救急車を呼び病院でTPA治療を開始すべきです。ただ最近は、この薬が使える時間をオーバーしてもカテーテルによる『血管内治療』が行えるようになってきています。とはいえ、どちらにせよ治療を開始するのは、早いに越したことはありません。早ければ早いほど脳に与えるダメージも少なく後遺症の心配も軽減されます。
 ただしTPA治療やカテーテルによる血管内治療はどこの病院でも行えるわけではなく、その専門医がいて、科類を超えた医師連携が成されていること、そして十分な設備が整っているなどが条件となり、南多摩地区においてはこの八王子医療センターをはじめとしてごく限られた病院でしか行うことができません。

脳卒中予防は、まず食生活の改善から

 脳卒中を引き起こす原因の第一は食事です。そもそも日本人は、脳梗塞も心筋梗塞も少ない民族であるといわれていました。ところが食事が欧米化し、飽食の時代になり、動脈硬化が進み脳卒中を引き起こすようになってきたと考えられます。いわば脳卒中も生活習慣病と同じ位置づけで考えられるわけです。
 普段の生活の中で予防ということを考えるならば、やはりバランスよくいろいろなものを腹八分目で食べることでしょう。そしてもう1つ、タバコは血管の炎症を引き起こす作用があるので止めた方が賢明です。
 また健康診断を受けて「あなたは糖尿病の境界型です」と診断された方は、医師のアドバイスをしっかり守ることが大切です。「境界型」と言われて食事の見直しや生活改善を促されて、それを意識して守ろうとする人がどれくらいいるでしょうか。ほとんどの人は「まだまだ大丈夫」と言って、なかなか改善しようという意識にはならないはずです。食事の見直しや生活スタイルの改善ということは確かに小さなアプローチではありますが、脳卒中というのは、日常生活の中での小さな不摂生の積み重ねによって引き起こされる病気です。結局のところ、脳卒中予防の一番のポイントは、患者さん予備軍と思われる人の自覚なのです。医師がいくらアドバイスをしたところで、その人が自覚を持って生活を変えよう思わない限り、脳卒中の危険は常に隣り合わせということになるのです。

脳卒中急性医療機関としての取り組み

 八王子医療センターは、『東京都脳卒中急性医療機関』の指定登録病院となっています。東京都には、急性期の脳卒中の患者さんを受け入れる「A病院」と、慢性期の患者さんを受け入れる「B病院」という2つのすみ分けがあり、指定を受けるためには、まずその前者であることと、TPA治療を行うにあたって薬の講習を受け、その治療に熟練した医師がいることが前提となります。つまり、病院全体として脳卒中医療に対する積極的な取り組みが必要ですし、それに相応しいスキルを持った医師の存在と設備の充実が複合的に求められるのです。
 さらにこれらに加えて、24時間いつでも患者さんに対応することができるかということも大きな要因です。検査基準の原則は「CTスキャンで可」ということになっていますが、最近の傾向として脳卒中患者に対する検査は「MRIがとれる病院」というのが主流になりつつあります。しかしながら、MRIの24時間体制というのは結構大変なことで、医師のみならず放射線の技師さんも24時間対応で常勤させておくということになります。しかしながら、こうした準備をしておくことが、いわゆる『急性医療機関』としての使命でもあり、脳卒中の患者さんやご家族から安心して治療をお任せいただける礎ともなっているのです。