東京医科大学八王子医療センター 脳神経外科 | 脳腫瘍

脳腫瘍

神保 洋之 神保 洋之

痛みや合併症をできるだけ抑えた治療で、患者さんの早期回復に努めます。

このくらい大丈夫だろう…それが危険信号

 脳腫瘍には、肺がんや乳がん、大腸癌などを起こした患者さんが、血流によって脳内に転移して腫瘍が発生する転移性脳腫瘍と、脳そのものや脳の周りにある神経や膜などに腫瘍が自然発生する原発性脳腫瘍の2つがあります。発生率は老若男女で一概に比較することはできませんが、一般的に悪性と考えられものは高齢者に多い傾向にあるようです。
 病気の予兆としては、頭痛や痙攣、後は、腫瘍の場所によってさまざまな症状が現れます。たとえば、手足の機能を司る場所であれば手足が動かせなくなったり、言葉機能に腫瘍ができれば言葉を話せなくなったり、あるいは成長ホルモンがたくさん出すぎて末端肥大症になったりとさまざまなものがあります。一部の予兆は脳梗塞と似ていますが、脳梗塞の場合はある日突然手足が動かなくなったり、言葉がしゃべれなくなるという症状が出ます。一方、脳腫瘍の場合は徐々に症状が悪化していきます。最初のうちはなんとなく動かしににくさを感じていて「なんだか痺れるような気がするけど、放っておいても大丈夫だろうと思っていた」というケースの患者さんが非常に多くいます。頭に腫瘍が出来た場 合は、必ずこうした症状が出るとは断定しにくいのですが、普段の状態と違った予兆が現れた場合は、いち早く脳神経外科か神経内科で検査を受けることが肝心です。

放射線治療のメリットとリスク

 脳腫瘍の発生は約1万人に1人という割合で、脳卒中のように頻繁に起こる病気ではありません。とはいえ現在は、市中病院であっても大きなものであればCTスキャンを撮れば脳腫瘍は発見できます。ただそこで手術から治療まで完結できるかというとなかなか難しいところです。八王子医療センターに訪れる患者さんの多くも、市中病院で脳腫瘍が発覚して、そこでは治療が行えずこちらにいらした方がほとんどです。
 治療の基本的なコンセプトは、悪いものは手術で削除し、正常なものは限りなく残す。これが原則です。したがって、良性腫瘍の場合であれば、悪いものだけ取り除けば治療が終了しますが、悪性の場合、多くは正常組織に侵食していきますので、手術後に抗がん剤治療や放射線の治療が必要になります。ただ悪性の場合でも小さな腫瘍なら手術をせずに放射線治療でピンポイント治療することも可能です。ただし、放射線治療については、患者さんやご家族の中には「放射線」という言葉自体に拒絶反応を示す方もいらっしゃいます。問題なのは放射線のかけ方です。転移性の方で脳内に腫瘍がたくさんある場合は、全脳照射といって脳全体に放射線をかけることとなり後遺症のリスクも確かにあります。ただし、1個や2個の腫瘍にピンポイントで行う放射線治療の場合はほとんど心配ありません。このあたりは病状を踏まえた医師の見解を慎重に考え判断されることが必要です。

医療連携で不可能な治療を可能にする

 八王子医療センター独自の脳腫瘍治療の特徴としては、低侵襲(ていしんしゅう)の脳神経外科手術があります。これは、手術に伴う痛みや後遺症などの合併症などをできるだけ少なくする医療のことで、患者の負担が少なく、回復も早くなることが見込まれます。たとえば、脳下垂体の手術などでは、鼻から内視鏡を入れて摘出することがあります。もちろん頭を開くこともありませんし、傷口が表面に残ることもありません。
 また、正常なものをしっかり見極めるために、手術の最中に実際にこの機能が働いているか否かをモニタリングしながら手術を行うことも大きな特徴といっていいでしょう。その最たるものが『覚醒下手術』です。これは、手術中に麻酔を覚まして医師と患者さんが会話をしながら手術を行うものです。なぜそのような必要があるかといえば、言葉を司る言語領野の近くにある腫瘍を取ったところ、言語領野も一緒に取ってしまったら、患者さんは手術後に話すことができなくなってしまいます。この判断は画像を見ているだけでは難しく、手術現場で医師が実際に確認しながら手術を行わなければなりません。これは難易度の高い手術で、南多摩地区周辺では限られた大学病院でしか行うことができません。 こうした手術は脳外科の医師の技術と経験ということもありますが、それに加えて麻酔科の先生がしっかりした技術をお持ちでないと行うことは不可能です。八王子医療センターの独自性という意味では、スペシャリストの連携によって「他では不可能な治療を可能にする」ということになるでしょう。

垣根を越えたセンター化の取り組み

 医療連携ということについては、八王子医療センターは他の大学病院などと比べても胸を張れるべきものがあるのではないでしょうか。脳腫瘍に関しては神経内科と小児科、また脳卒中であれば救命救急センターなどと、かなり深い連携を行いながら患者さんの治療にあたっています。
 こと脳腫瘍についていうなら、外来に、手が動きづらいとか言葉が話しにくいという症状の患者さんが訪れた場合は、脳神経外科だけではなく神経内科や一般内科・整形外科にかかるケースがあります。そこで検査をした結果、脳腫瘍が疑われる場合は即座に脳神経外科に紹介され、私たちの方で神経内科などの検査結果をもとにさらなる検査と具体的な治療を開始することになります。逆もまたしかりで、手術では治せない多発性硬化症であったりパーキンソン病といった、薬物治療が中心になる患者さんについては神経内科の方に私たちの調べたデータと共に引き継ぎます。
 こうしたことがスムーズに行えるよう脳神経外科・神経内科・救急医療科の間では定期的なカンファレンスを行い、情報交換を行っているのもこの病院の大きな特徴の一つといえるでしょう。当直も「脳神経当直」という位置づけで、脳神経外科が担当する日と神経内科が担当する日に分かれていて、脳および神経に関わるものに関してはいかなる場合でもスペシャリティを持って対応できるという仕組みづくりが成されています。今後は多くの大学病院でも、垣根を越えた、いい意味でのセンター化の動きが始まるでしょうし、またそうしたことが本来的には患者さんのためになるのだと思います。